22/7(ナナブンノニジュウニ)っていう声優アイドルグループがあるんですけども。
簡単に説明すると、秋元康プロデュースのオーディションで選ばれた11人の女の子が、生身でアイドル活動もやりつつ、それぞれ声優として持ちキャラを演じてアニメやバラエティに出たりVTuberみたいなことをやったりするグループです。
公式サイトを見てもキャラのことがわかりづらいと思うので、YouTubeで公開されている 「あの日の彼女たち」というそれぞれのキャラにスポットを当てたショートアニメシリーズを観てもらえればと。
(本来は11人キャラがいるのですが、
大人の事情なのか8人分しか作られてません)
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22/7 「あの日の彼女たち」day01 滝川みう・
22/7 「あの日の彼女たち」day02 河野都・
22/7 「あの日の彼女たち」day03 立川絢香・
22/7 「あの日の彼女たち」day04 佐藤麗華・
22/7 「あの日の彼女たち」day05 斎藤ニコル・
22/7 「あの日の彼女たち」day06 丸山あかね・
22/7 「あの日の彼女たち」day07 戸田ジュン・
22/7 「あの日の彼女たち」day08 藤間桜自分はふだんテレビを見ないのでアイドルのことはまったくわからないのですが、このショートアニメの出来がよいので、二年くらい前からちょくちょくグループの動向を追っています。
ショートアニメを観てもらえばすぐにわかると思うのですけど、アニメのキャラデザと作監は
堀口悠紀子さんです。
京アニに所属していたときの「らき☆すた」や「けいおん!」や「たまこまーけっと」のキャラデザがとくに有名ですね。
↓「あの日の彼女たち」day05 斎藤ニコル(2018年・A-1 Pictures・若林信監督)
↓「たまこまーけっと」(2013年・京都アニメーション・山田尚子監督)のOP
堀口さんはアニメーターだけでなく、白身魚名義でイラストレーターもされていて、ラノベの挿絵も担当されています。
以前は「堀口=白身魚」というのは公然の秘密でしたが、京アニを退社されてフリーになったためか、
ご本人のTwitterなどを見るといまは公表されているようですね。
「あの日の彼女たち」のコメント欄でも、堀口デザインだからか「京アニが作ってるの?」というようなコメントが多く見られます。
製作会社はA-1 Pictures。監督は
若林信さんです。
ちなみに、今年の1月から同じくA-1 Pictures製作で、
22/7のテレビアニメが1クール放送されました。
しかし監督は若林さんから変更となり、堀口さんも参加されていません。
父っちゃん坊やな僕 いつまでもピーターパンのような
純真な心を持つ僕にはよくわかりませんが、やはり
大人の難しい事情が絡んでいるのでしょうか。
まぁ、
テレビ版の話はもういいとして、「あの日の彼女たち」です。
キャラデザこそ堀口さんですが、自分は京アニっぽいとは思いませんでした。
それはやっぱり演出のためで、自分のなかで堀口デザインといったら山田尚子さんの演出がまっさきに浮かんでくるので、若林監督の演出は「山田尚子っぽくない=京アニっぽくない」と感じたんですね。
(もちろんそれは悪い意味じゃありません。独自のものになっていてすばらしい)
山田尚子監督は本当に独特な演出をする方です。
彼女が「けいおん!」の監督をした2009年以降、アニメ業界の人たちは山田尚子の秘密を解き明かして作品作りに活かそうと試行錯誤してきたのですけど、いまだにポスト山田尚子は出てきていない。(実写だと山戸結希監督とか近いにおいを感じるのですが)
山田尚子監督については、プロのアニメ評論家や映画研究者ではなくて、むしろネット上のアマチュア評論家のほうが積極的に取り上げてきた印象があります。
当初は、けいおんを評価しないプロの人がけっこういたんですね。おじさんはついていけてなかった。
ネットにいる若いアマチュアのほうが素直に評価した。
かく言う僕も、べつにプロの評論家でもなんでもないけど、最初にけいおんの1話(山田監督がコンテ演出を担当)を見たとき、「なんでこんなに
癖だらけの演出をするんだ?」とおどろいたのを覚えています。
スマートな演出家が揃っている京アニのなかで、それぐらい山田さんの演出は独特で、周りから浮いていた。
けいおんの2話以降はそれぞれべつの演出家が担当しているのですが、監督の山田さんの指示が少なかったのか、それともだれも山田さんの演出についていけなかったのか、1話に合わせないでそれぞれ好き勝手に演出している感じで、その点からするとけいおん1期はバランスが悪いんです。
2期のほうがずっと統一感がある。
山田さんの演出についてはこのブログでも何度か部分的に取り上げたことがあります。
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山田尚子監督の「山田ハンド」 ・
山田尚子監督の「山田ハンド」つづき。 ・
アニメにおけるスカートの演出 ・
アキハバラ∧デンパトウ・第2回解説・
「聲の形」に見る山田尚子監督の「不安定=揺れ動き=瑞々しさ」の演出 前置きが長くなりましたが、今回の記事を書こうと思ったのは、22/7のメンバーで藤間桜役の声優である
天城サリーさんが、ご自身の
YouTubeチャンネルにアップロードした動画を観たからなんです。
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[Are Idol Members Really Friends Behind The Scenes?] 元ボッチがアイドルになったら明るくなった[ソフトクリーム落としちゃった]この映像、なんか山田さんっぽくないですか?
動画を作成したのはアイドルの天城サリーさんなんですが、べつに山田さんを意識して作っているわけではないと思うんですよ。
以前撮影したメンバーとの動画を音楽に合わせて編集したのでしょうが、それだけでこれだけ山田さんっぽくなるというのは、逆説的に山田さんの演出の特異さを物語っている気がする。
むしろ
山田さんのほうが、こういうアマチュア的な映像をアニメで再現しているというか。
そういう指摘は以前からあって、インディーズ映画っぽいとか言われることがあります。
(なにをインディーズと呼ぶのかという問題はありますが、ほかにもソフィア・コッポラ監督の作品やルシール・アザリロヴィック監督「
エコール 」からの影響とかも)
どうしてそういう評価があるかというと、山田さんが
被写体ファーストな演出をするというのが理由の一つでしょう。
アニメはすべて絵でできてますから、実写と較べて一カット一カットを一枚の「絵」として見ようとする意識が作り手に生まれやすい。
レイアウトという作業がそういう意識を助長させているはずで、アニメーターとしては一枚の絵として気持ちいい構図を作りたいと考えると思うんですね。これは本能的なことで。
実写だと小津安二郎監督がそういうふうに一カット一カットの構図を絵のように厳密に決めていたことで有名で、アニメ関係者に小津ファンが多いのは決して偶然ではない。
北野武監督も小津とは演出のタイプは違うけど、そういう画作りの意識は強いはず。
京アニだと武本康弘監督がまさにそういうタイプで、一カット一カットがとにかくかっこよくて、気持ちいい構図が多いんです。
また、そのカットとカットをモンタージュしてシーンを作るときも、いかにも理知的というか、キャラ以外に見せたいものや表したいものを効率よくスマートに見せようとする。
木上益治監督もそうだし高雄統子監督もそう。みんな腕のいいアニメーターでもあります。
こういうタイプの監督は、カットを静止画で一枚一枚とりあげてうんぬんしやすいから、ブログや書籍で取り上げやすいんですよね。
一方で、山田さんは一枚絵として気持ちのいいものを(さほど)追求していないように見える。(山田さんもアニメーターなのに!)
アングルやショットサイズを、あえて半端なものにしていることがある気がするんですよね。
一枚の絵としての強度やモンタージュによる派手な演出ではなく、キャラの表情や仕草や、キャラ同士の距離感を表すことを重視して、なによりもそういうものによって生まれるムードを持続させてドラマを作る。
だから、ショットサイズをロングにして背景込みでかっこいい絵にすることは重要じゃないし、アングルも俯瞰にしたり斜めにしたりという技巧的なこともさほど重視しない。
そういう画作りにすると、映像に新たな意味が発生してしまって、キャラ同士のかけあいが作るムードとバッティングしてしまうことがあるから、カメラを低めに構えたニーショットやバストショットあたりの中間的なショットサイズで画面に三人くらいちょうど収まる構図を好むのではないか。
もちろん映像的に必要であれば俯瞰なりロングなりの絵は入れるし、OP・EDなどはとくに技巧的なこともするんですけども。
じつはこういう考え方、富野由悠季監督がよく仰っていることなんですよね。
このブログでも何回か取り上げた「
映像の原則」のなかでも、「流れるようにカットをつなげてドラマを進めていくためには、映像的に個別の意味の発生しない中途半端なショットサイズの画面が必要」という趣旨のことを仰っています。
山田さんはアオリをよく使うのですが、その点も富野さんとも共通している。
京アニの演出陣は木上益治さんの影響なのか、あまりアオリを使わないんですよ。
富野監督いわく、カメラ位置を低くしてアオリにしたほうが難しい背景やモブを描くのを避けやすくなるし、煽ったほうが映画的になるのだそうです。
上のほうで紹介した、22/7の
天城サリーさん撮影の動画は、まさに上記の条件を備えています。
被写体(アイドル)優先のアングルで、アングルは俯瞰はなく、目の高さよりやや下が基本。
カメラ(スマホ)を床に置いて撮影することもあるからローアングルなものもあるし、カットつなぎもよい意味でラフ。
1分15秒あたりのジャンプカットなんて、まんま山田演出のOP・EDに出てきてもいいくらい。
出だしから22秒あたりまでの流れはとくに目を見張りますよね。
岬にある鐘に走り寄っていって鳴らすところとか、音楽とも合っていて最高。
天城さんが映像感覚にもすぐれた多才な人だというのはまちがいありませんが、こういう実写的な映像をアニメで再現しようとした山田監督もまたすごいな、とあらためて思いました。
山田さん以前には、こういう実写的な演出をアニメでやろうとした人はいなかったと思うんですよ。(単に実写的というなら高畑勲さんがいますけど山田さんとはタイプがちがう)
レイアウトで画面を「保たす」という発想じゃないので、作画の手間がえらくかかるんです。
今回は撮影まで取り上げなかったですけど、撮影処理でレンズ効果をだしたり色味を調整したり手ぶれを入れたりとかも細かくやって「あえてやってる」感をださないといけないし。
京アニみたいなスタジオでなければ到底できないんじゃないでしょうか。
京アニについて触れるとどうしてもあの事件を思いだしちゃってつらくなるのですけど、やっぱりいい仕事は積極的に取り上げて広めたいと思います。
余談ですが、「あの日の彼女たち」の
若林信さんが監督を務める、「
ワンダーエッグ・プライオリティ」というオリジナルアニメが2021年1月から放送開始だそうです。
公式サイトを見ると、22/7の
滝川みうちゃんによく似た女の子がダブルピースをしている絵があって、原案・脚本が野島伸司さんということもありこの子が
ひどい目に遭わないか心配になるのですが、いまからアニメ放送を楽しみにしています。