処女作の思い出

徹夜した明け方にふと書きたい気分になったので。
処女作の思い出です。

自分が初めてパソコンを手に入れたのは、高校二年生のとき、2001年10月ぐらいでした。(来年で二十年経つのか)
ちょうどそのタイミングでWindows XPが登場して世間が騒いでいたのをおぼえてる。
NECの「VALUESTAR」というブランドで、十万以上したはずだけど、いま思えばよく親に買ってもらえたなと。
そのころちょうど父親の会社が不渡りを起こしそうなときだったので、ヤケでも起こしたのでしょうか。

パソコンが欲しかったのはインターネットがしたかったから。
それ以前から、ちまたに登場しはじめていたネットカフェでテキスト系サイトやゲームの攻略サイトなどを熱心に見ていて、自宅でもネットサーフィン(死語)がしたくなったわけです。

2001年はADSLの普及期で、ネットカフェでよく見ていた「バーチャルネットアイドル ちゆ12歳」という有名テキスト系サイトが「ヤフーがADSLサービスを開始」という記事を書いていて、ソフトバンクが格安のサービスを始めたけど怪しいぞ信用できないぞ、というネットの声を紹介していました。

そのちゆちゃんの記事を読んでADSL環境が欲しくなったわけですが、まだ自分の地元がソフトバンクのサービス管轄外だったためフレッツ・ADSLにするしかなく、しかも実家の電話回線のタイプがネット回線として使えなくて、工事をして新しく回線を引く必要があることがわかりました。

施工はしばらく先の予定だったため、ネットにつながっていないパソコンでなにをしようかと考えた結果、タイピングの練習もかねて小説でも書こうかと思ったわけです。

そのころのパソコンはよくWordがバンドルされていたため、最初はWordに横書きで小説を書き始めました。
2001年の暮れぐらいかな?
ただ、当時はプロットも立てていなかったし、タッチタイピングもできなかったため、数枚で挫折した。
どんな内容だったかもおぼえていない。さすがにこれは処女作とは呼べないですね。

そのあとADSLの回線を通す業者に来てもらったのだけれど、どうやら僕の地元ではまだそうとうネットが珍しかったようで、僕が高校に行っているあいだに近所の人たちが僕の部屋に上がり込んで工事の様子を見学していたそうです。
学校から帰ってきてそのことを母から伝えられたとき、「ADSLぐらいでこんなに珍しがるなんてどれほど田舎なんだ!?」と愕然としたものです。
まさかそれから十年後ぐらいにはスマホが日本中に普及して、お年寄りまでネット動画を観る時代が来るとは思いもよらなかった。

高校三年にあがるかどうかというタイミングで、僕はもう少しちゃんと小説を書いてみたいと思うようになりました。
構想したのは、こんなロードムービーふうの物語でした。

・いじめに遭い自殺しようと思い詰めた中学生の少年がビルの屋上にのぼると、偶然にも同じく自殺しようとしていた年上の少年と、死神を名乗るミステリアスな少女と出くわし、三人で日本中の自殺の名所へ自殺旅行に出かける。


タイトルは「この空を忘れない」。

たしか当時「探偵ファイル」で、そのころ問題になりつつあった自殺サイトについての記事が書かれていて、それに触発されて設定を思いついたのだったと思う。

主人公の中学生の名前は小唄。
年上の高校生の男子はジュンヤ。
死神を名乗る10代後半の少女はカグヤ。

当時はジャンルというものをぜんぜん意識しないで書いていたのだけれど、雰囲気としてはかなりラノベというかジュブナイルっぽいね。
小唄という少年は、じつは2006年に出版した僕のデビュー作「Beurre・Noisette(ブール・ノアゼット)」の主人公と同じだったります。

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Beurre・Noisette 世界一孤独なボクとキミ (スーパーダッシュ文庫)

じつは僕のなかでは、「この空を忘れない」の物語を経験した小唄くんが数年経ち、高校に進んだあとに体験したことが「Beurre・Noisette」だった、という裏設定があります。

執筆のための資料として「完全自殺マニュアル」を購入し、親に見つかったら心配されそうだから部屋の机の引き出しにしまっておいた。
引き出しにふつうに入れてたら親に見つかるんじゃないの? と思うかもしれませんが、なにしろ僕はまったく勉強をしない人間だったので、親も机の引き出しなんて開けようとしないんだな。

引き出しには当時ひそかに愛読していた「カードキャプターさくら」を何冊も大切に寝かせていたので、そのかわいらしい表紙に混じって完全自殺マニュアルが鎮座ましますというじつにシュールな図になっていました。

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↑なにやらヤバイものを封印解除(レリーズ)してしまったさくらちゃん。


この資料やネットで調べた情報をもとに、物語の結末だけぼんやりとイメージして書き始めました。
初心者にありがちですが、自分の思いついた設定に完全に舞い上がっていて、「ようするに主人公たちを各地の自殺の名所に行かせて、そこで自殺者の死体を見つけたりほかの自殺志願者と交流させていけば物語ができるだろ!」と思っていました。
当時はまだ小説を読み始めて間もないころだったので、小説の書き方なんて知らないわけです。
せめて短編から試せばいいのに、これも初心者あるあるですが、いきなり大長編を書こうとしちゃったんですね。
プレステやドリキャスでさんざんKeyなどの移植版ギャルゲーをプレイしていたので、物語は長編であるべきだと完全に思い込んでいたんですね。

処女作「この空を忘れない」は、原稿用紙換算で90枚ぐらいまで書き進めました。
主人公の小唄くんが親に黙って払暁に家を抜けだし、中央線のホームで二人と待ち合わせをして、そこから電車を乗り継いで山梨県へ……
中央線のホームのシーンを入れたのは、とある駅でよく飛び込み自殺が起きるという情報をネットで知ったから、自殺の名所の一つとして取り入れました。
三人で電車を待つあいだ、なにやら死神を気取るカグヤが中二病全開な衒学的自殺の考察を垂れ流しています。

……二十年近く前の処女作の詳細をよくおぼえてるな、と思われるかもしれませんが、じつはいまもこのパソコンのなかに原稿が残ってるんですよね。
もっとも、ちゃんと読み直す勇気なんてありゃあしません。
ざっとスクロールしてみてわかるのが、文章が稚拙なのは処女作だし高校生だからしょうがないとしても、章題が「1/邂逅――闇夜にて。」とか「2/旅路――死を目指して。」などとか書いているところがもう……


いやあ、17歳の俺すげえなあ!


まともに読み進めたら確実に悶死します。
そうだ、いつか自殺したくなったらこいつを読み直すことにしよう。

さて、自殺旅行に出発した三人は駅を乗り継いで、山梨県の富士の樹海まで来ました。
なにしろ日本で一番有名な自殺の名所ですから外せません。
そこで何人はついに死体と出くわします。首つり死体です。
その死体を前にして小唄くんはびびりまくりますが、ここでも死神を気取るカグヤが中二病全開な衒学的自殺の考察を(略)

小唄くんと年上のジュンヤくんは、自殺をするために旅行しているのに、どうもぜんぜん死ぬ気配がありません。
二人とも死体を見てびびったりぐちぐち文句を言ってるだけで、なにがしたいんでしょうか。
カグヤには秘められた事情がいろいろとあるのですが、物語前半は狂言回し的なミステリアスな存在として書かれてあるので、やっぱりなにがしたいのか読者にはわかりません。
まだ中盤に入ったばかりなのにすでに迷走しています。

富士の樹海をでた三人は、その日の宿泊地を探します。
旅館の女将が、「あなたたちまだ十代よね。そんな子たちを泊めさせられないわ」みたいなことを告げて三人を追い返すというお決まりの展開があります。
あきらめて野宿でもさせるのかと思いきや、作者はなんとかしてどこかのホテルに三人を泊めさせたい様子。
どうやらカグヤのシャワーシーンを入れたり、男女とも同じ部屋で寝させて小唄くんをどきどきさせるといった展開がやりたかった模様。
ギャルゲー的なイベントが起きそうな気配がビンビンです。

しかしここで思いもよらぬ大事件が!


パソコンぶっ壊れた\(^o^)/



エロサイトから性病でももらったのかなんなのか、OSが起動しなくなってしまいました。
当時のパソコンはいまよりもずっと不安定で壊れやすかった。
結局、OSを再インストールするはめに……

しかし、当時のパソコンにはフロッピーがついており、定期的に原稿をディスクにバックアップしていたため、すべての原稿を失わずには済みました。偉いぞ17歳の俺。
ただ、最新のデータはバックアップしていなかったため何枚ぶんかの原稿が飛んでしまい、モチベーションはだだ下がり。
物語の中盤に進むにつれてその先の展開が見えなくなっていたこともあり、結局そこで執筆を中断することになりました。

この作品で学んだことは、最初の設定でおもしろく引っ張れるのは序盤までということ。
中盤以降の展開をしっかり広げる構想力が必要ということでした。

それとバックアップはだいじ。

それ以降、フロッピーやUSBメモリや外付けHDDに定期的にバックアップをとっていこうという意識が増しましたが、手動操作でコピーしようとするとまちがって古いファイルのほうで新しいファイルを上書きしてしまう事故が起きる危険がありました。

作家になってからも、知り合いの作家が上書きミスで大騒ぎしていたり。
理想のバックアップソフトを探す時期がかなり長く続きました。
ややこしいのが、原稿を更新するたびに外付けメディアに上書きしていけばいいわけでもなく、あとになってやっぱり変更前の原稿のほうがよかった、ということがしばしば起きたりするのです。
そのとき、外付けメディアに古い原稿が残っていると助かったりするんですよね。
原稿のバージョン管理をするためのツールが一般向けにはまだほとんどなかった。

2008年にDropboxというクラウドサービスが始まり、ネット環境につながっていれば意識せずとも勝手にバックアップファイルがクラウド上に積み重なっていく環境が簡単に手に入るようになりました。
更新前のファイルも探せるようになり、ひとまずこれでバックアップ問題は解決。よかったよかった。

処女作「この空を忘れない」は高校三年生の夏前には執筆を断念した記憶があったのですが、現在のパソコンに残っているファイルを見ると更新日時が「2004/04/17」となっています。
高校を卒業したあとになってもまだファイルを更新していたことになります。
高校生のときはWordで執筆していたので、その当時のファイルが残っているとしたらWordのdoc形式のファイルだったはずですが、手元にあるのはtxtファイル。

ひょっとしたら、パソコンを買い換えて原稿ファイルを移し替えるときにおかしな操作をしてファイルを更新したのかもしれません。
そういえば専門学校に入ってからバイトして買ったノートパソコン、たしか安いHPのだったからWord入ってなかったような……doc形式の原稿が開けなかったので、テキストファイルに変換して保存したのかもしれない。
記憶にはないですが、諦めきれずにそのあともちまちま推敲していたのかも。

この90枚ぐらいで断念した処女作は、高校三年のときにクラスメイトのS君に途中まで読んでもらいました。
彼が初めての読者で、きっとお世辞だろうけれどおもしろいと言ってくれた。また続きやほかの作品も読みたいと言ってくれた。
S君は専門学校も一緒で、そこを卒業したあともいまにいたるまで僕と付き合ってくれているありがたい友人です。
その初めての読者の声に勇気づけられて、僕はほかの作品も書くようになりました。
これとほぼ同時に書いていたべつの作品もあるのですが、それについてはまたいずれ。イタさではこれに負けないですぞ。

いろいろ中二病臭くはありましたが、自殺志願者たちが連れ立って自殺旅行するロードムービー、というコンセプト自体はいまでもおもしろいと感じているので、いつか書き直してみたい気もします。
あ、思いだした。デビュー作のあとに編集部にこの企画をだしたら駄目と言われたんだった。
そりゃラノベじゃこんな暗い設定は無理だよなぁ。いまならライト文芸というジャンルもあるけども。