新型コロナの影響が世界中さまざまな分野に現れていますが、創作にもそれは及んでいます。
すでにアニメ放送や雑誌発売の延期が数多く起きていますが、物語の中身まで考慮しなければならないこともあります。
少し前まで自分が書いていた作品は、以下のような設定でした。
日本の米が世界中で人気となった近未来。米の買い占めなどで利益を得ようとする組織や、武装した米泥棒が各地に現れたため、農協が傭兵を雇って田畝を守らせる物騒な世の中になる。とある事件をきっかけに米の人気が過熱し、気候変動や蝗害などもあって米が不足し、世界中で米騒動が起きる。
ジャンルとしては「もし世界規模の米騒動が起きたらどうなるか」をシミュレーションした広義のSFパニックものです。
映画の「
マッドマックス2」で、石油を巡って殺し合いをしている世界が描かれましたが、あそこまで過激でなくとも米を巡って人びとが争う世界を描けばおもしろいのではないかと。
マッドマックス2 日本語吹替音声追加収録版 [Blu-ray]宝石でも石油でもなく、米という身近なものを巡って世界中で混乱が起きているという間の抜けた感じや、農協傭兵という言葉のおかしな響きが気に入っています。
設定はアホっぽいですがテーマはわりとまじめで、情報化時代のナショナリズムやポストトゥルースをとりあげ、ロヒンギャなどの民族問題なども絡めて21世紀の帝国主義の可能性を描き、裏テーマとして数十億年続く植物と他生物との支配と被支配の関係も表現しようと思いました。
農業+SFというのはきっと前例はあるでしょうがあまり多くはなさそうなので、やってみたらおもしろいのではないかと。
ここ数ヶ月、いろいろな資料を読みながら書いていたのですが……今回のコロナ騒動で完全に予定がくるってしまいました。
この物語は、「現代ではもう米不足や食糧不足なんて起きない」と読者が認識しているという前提で作っていました。
その「米騒動なんて起きるわけない」が、物語を読んでいくうちに「本当に起きるかも」と思わせるところに物語のおもしろさがあるわけです。
でも、いま世界中で食糧難が起きつつあるじゃん!一時的ではあれスーパーから生米やレトルトご飯が消え、パスタなども手に入りづらくなっています。
食糧だけでなく、トイレットペーパーやマスクを巡ってスーパーや薬局で大混乱が起きたのも記憶に新しいところです。
海外では客同士がトイレットペーパーを巡って殴り合いを起こしたり。
ああいうシーンをまさに米を巡る物語のなかでやりたかった。
しかも中国のほうじゃ蝗害も起きているというし。
それも作中でやる予定だったんだよ!こういう現実が発生してしまうと、パニックものは作りづらくなる。
これを一年前に書いて発表していたらいまごろ評価されたかもしれないんですけどね……。
なので、悔しいですが設定を変えて書き直そうと思っています。
こういった事情で内容を変えるとだいたい失敗するものなんですけど、いまのところミステリにしてみようかと考えています。
ミステリといってもトリック中心のものじゃなく、米を巡る陰謀があって、プロジェクトに携わる人が殺されて……というような社会派のほうです。
ミステリといえば、18・19歳のときはミステリばっかり読んでいて、書いていた作品もそっちのジャンルでした。
俺も新本格でデビューするんだとメフィスト賞に長編を二つ書いて送ったけど、どちらも一行コメントでぶった斬られたなぁ……。
ご存じない方のために補足すると、以前のメフィスト賞は雑誌で投稿作すべてに編集者がコメントを書いていたんです。
落選した作品でも、見所のある作品や作り手は座談会形式で複数の編集者からそこそこ長くコメントをもらえて、駄目な作品はページの端っこのほうに一行コメントでバッサリ斬られてました。
同じ時期に兄弟誌の「ファウスト」が創刊されて、そちらでは短編小説の募集がかけられていたので叙述トリックありの作品を投稿しましたが、やっぱり編集の太田さんから一言でぶった斬られた。
そのコメントが載ったファウストの号、いまも実家のどこかにあるはずだけど、清涼員流水さんと西尾維新さんとの対談が載っていて、たしかそこで西尾さんが「麻耶雄嵩さんが、『本当にすごいやつは二十歳までに頭角を現す』というようなことを書いてて、投稿時代の自分も二十歳までにデビューしなければと思っていた」というようなことをおっしゃっていて、そのころ19歳ぐらいだった自分もすごく焦ったのをおぼえてる。
しかも、そのころにはもう自分より年下の日日日さんがいくつも賞をとってデビューしてたし。
なにか話がずれちゃいましたけど、ほかの原稿ともども頑張って書こうと思います。