「亜人ちゃんは語りたい」4話の石井俊匡演出

近ごろ体調を崩していてアレなのですが、アニメ「亜人ちゃんは語りたい」の4話の石井俊匡さんの演出を見てちょっと元気になった藍上です。

以前も何度かとりあげましたが、A-1 Picturesの新進気鋭の演出家、石井俊匡さんについての記事です。

……ふと思ったのですが、こんだけ特定のクリエーターをブログでとりあげまくるのって、かなりキモいですね。
ある種のストーカーなのではないか。
まぁ、いにしえよりつづくオタク道の一環だと思ってください。すべては二次元の世界へ解脱するため。

そのうちどっかの新興宗教みたいに結跏趺坐したままジャンプしだすんじゃないかな僕。


さて、「亜人ちゃん」は、ペトス先生の原作マンガも一巻を読んだときとてもおもしろいと思いましたが、アニメにするときにどのへんを演出のポイントとするかを楽しみにしていました。
4話にふれる前に、おそらく監督の安藤良さんが気を遣われているであろうポイントを少し。

この作品は、個性的な亜人の女子高生たちのかわいさが売りの一つだと思うのですが、いわゆるハーレムものの雰囲気とはちがいます。
それは主人公の「高橋鉄男」という高校教師が、「うまい距離感」で女の子たちと接しているからです。

「亜人」という存在は、扱い方によっては外国人などのマイノリティのメタファーとしてとらえられてしまうおそれもある、けっこう難しい題材だと思います。
どうしても受け手の意識が「人間と亜人との立場の相違」に向いてしまうため、見せ方によっては無用にシリアスな感じになってしまう。

それを避けるため、「さらっとした演出」が心がけられているように見えます。

たとえば1話のこのシーン。(絵コンテ・演出=安藤良)

「先生……亜人きらいなの?」
亜人1
亜人2
亜人3


鉄男の言葉を誤解したヴァンパイアの「ひかり」が、「先生……亜人きらいなの?」と落胆した顔でたずねます。
それに対し、鉄男はすぐに「あぁ……いやちがう。誤解されるいい方をして悪かった。むしろ亜人は大好きだ」と説明します。

やろうと思えばもっと深刻にえがくこともできると思うのですが、「間」などをとらずに、さらっと説明しています。
鉄男役の声優・諏訪部順一さんの演技も、なにげない調子のものになっています。

このやりとりは新鮮に感じました。
ここで鉄男がもっと動揺して弁明のような形になってしまうと、物語的に重くなるんですよね。
カットの作り方にしても声優さんの演技にしても、重くならないように注意されています。

これは今回の4話でもありました。(絵コンテ・演出=石井俊匡)

「姉はヴァンパイアらしくないとお思いですか?」
「姉の人間性については、それほど興味はありませんか?」
亜人4話1
亜人4話2


「……そうだな。ちゃんといおう。たしかにあいつはヴァンパイアの性質に即した行動をあまりしない。だがそれでヴァンパイアらしくないといわれると、それはちがう。(略)」
亜人4話3
亜人4話4


今回も、相手から問い詰められたあと、ほとんど「間」を置かずにすぐに鉄男が返事しています。
カットも細かく割るのではなく、落ちついた感じになっています。
鉄男の態度が無造作に見えるようにしているからこそ、話がこれ以上重くならない。
演出的にはいろいろと凝りたくなるところなんですけど、あえてさらっと作っている。
「大人の余裕」というものがこの作品の重要なポイントになっていると思います。(まぁ、生徒とハグして動揺したりもするんだけど)

原作の雰囲気を守るために、おそらく監督が心がけていらっしゃる部分なのだろうなと。
ここら辺、いまシャフトがアニメ化している「3月のライオン」と好対照をなしていると思います。
「3月のライオン」の場合、原作の雰囲気をだすために、「間」を強調したり「目や口のアップ」を細かく挟むことにより、重い・湿ったムードを演出しています。(いわゆる「シャフト演出」と呼ばれるものですが)

「亜人ちゃん」に話をもどしますと、こういう「さらっとした感じ」をだすために、「ワイプ」も極めてシンプルになっています↓

亜人1ワイプ①
亜人1ワイプ②
亜人1ワイプ③


ふつーにワイプしてます。
最近のアニメではワイプするとき、なにか派手なエフェクトをつけることが多いのですが、音すらありません。
このシンプルなワイプを多用することで、さらっとした感じがでてると思います。

さて、石井さん演出の4話ですが、まずは石井さんの得意な、横の構図を使って「壁」をこえる見せ方をご紹介↓

亜人4話5
亜人4話6
亜人4話7
亜人4話8
亜人4話9


Aパート、女生徒から陰口をいわれて傷ついている雪女の「雪」を、鉄男が助ける場面。
二人のあいだに窓枠があり、二人をわかつ「壁」のようになっています。
鉄男がその窓枠をこえて雪に近づくことにより、「助けた感じ」が強まっています。

この4話、Aパートがわりとシリアスな展開であるということと、石井さんが演出をしているということもあり、じつはいつもより「さらっと」はしてなかったりします。けっこう劇的です。
Bパートになるとこれまでと同じような雰囲気にもどるので、ストーリーに合わせてあえて雰囲気を変えたのだと思います。

ちなみに雨のシーンで全体の彩度を落とすというやりかたは、A-1 Pictures内では「高雄カラー」とか呼ばれてたりするようです。(アイマスの映画のコメンタリーより)
キャラの気分と天気をリンクさせるやりかたは、まさに高雄統子監督のデレマスでもよく使われておりました。
石井さんと高雄さんは、演出の方向性がちょっと似ている気がしますね。

この4話で見られた「アジサイ」の使い方も、ちょっとデレマスを思わせます↓

亜人4話27


ハサミで切られてしまった「青いアジサイ」は、陰口をいわれて傷ついている「雪」を示しています。
しかしそのあと、以下のカットがでてくることにより、雪の救済が暗示されます↓

亜人4話28


ネットで調べてみると、アジサイにはいろいろな花言葉があるそうです。
カラーセラピーランド」さんによると、ピンクのアジサイの花言葉は「元気な女性」というものだそうです。
ピンクのアジサイは「ひかり」を示しているんでしょうね。
こういう花の使い方はちょっとデレマスを思わせます。

話をもどして、以下のシーンでも、「壁」を乗り越えるやりかたが見られます。
鉄男の同僚教師の「佐藤先生」が、「柱」を通りすぎて鉄男にずんずん近づいていきます↓

亜人4話10
亜人4話11
亜人4話12
亜人4話13
亜人4話14
亜人4話15


思いきり人物を左右にふっているので、左側にいる佐藤先生の移動がとても印象的になります。
石井さんはこのように、キャラを横に動かすやりかたにおもしろい特徴が見られます。

……が、今回はそれだけでなく、「縦の構図(動き)」にも意欲的に挑戦されています。

亜人4話17


すみません、静止画じゃまったくわからないでしょうが、上記の場面では二人がこちらに向かってずんずんと歩いてきます。
このとき、歩くスピードに合わせて背景が後ろへ流れていきます。
実写にたとえると、カメラが後ろにバックしながら、そこへ向かって二人の役者が進んでいく形になります。

アニメの場合は昔から、こういう移動撮影は苦手でした。
カメラが動いてもパースの変化がないため、不自然になりやすかったんですね。
「背景動画」という手法をとればいちおうパースの変化も実現できるのですが、通常の背景と塗り方がちがったりして違和感がでやすい。

実写監督でいうと、固定カメラが基本の小津安二郎のような演出はアニメでも実現できますが、移動撮影+長回しの多い溝口健二のような演出は、アニメでは非常に難しかったわけです。

しかし最近では3DCGをうまく使うことにより、背景を動かすこと(カメラを動かすこと)が以前よりもやりやすくなったみたいです。
アニメ会社でいうと、「Production I.G」や「ufotable」などが昔から意欲的にそれをやっている印象です。

画像は割愛しますが、女子トイレのシーンでも、ひかりが前にでるときに背景が動くところがありました。
ひかりが前進することを効果的に示したかったのでしょう。

従来の石井さんの演出では、こういうふうに背景を動かすやりかたはあまり見られませんでした。
新しい挑戦が見事に実っています。

また、「縦の構図(動き)」といえば、Bパート後半にはこういう新しい見せ方もありました。

下校時に、たまたま鉄男と、ひかりの妹の「ひまり」がいっしょになるシーンです。
ひまりは、鉄男と姉のひかりが仲良くしていることが気に入りません。
その二人のあいだに、白い線が引かれて「壁」が作られています↓

(※以下の引用画像は連続したものでなく、特定のカットだけをピックアップしたものです)
亜人4話18
亜人4話19
亜人4話20
亜人4話21


これまで横の構図でやることが多かった「壁作り」を、ここでは縦でおこなっております。
引用画像ラストの俯瞰カットとか、白い線によって二人の懸隔がよく表現されていますね。

また、二人が歩いている坂道に「○」の滑り止めがあることにご注目ください。
これは「ひまり」の心の荒れ方をあらわしていると思われます。

しかしこのあと、鉄男の説明により、ひまりの心から警戒心が薄れていきます↓

「……ぐうの音もでない。信じてもいいかも」
亜人4話22
亜人4話23


上記引用画像二枚目のときに、ひまりの顔に徐々に光がさしてきて、鉄男へのうたがいが晴れたことが示されます。
そして、すぐつぎのカットになると、二人は坂道をおりきって平地につき、下にあった「○」の滑り止めが消えます↓

亜人4話24
亜人4話25
亜人4話26


また、二人をわけていた「白い線」も消えて、心理的な壁が消えたことが示されます。
地面の模様を使ってこのように心理描写するやりかたは、自分はこれまで見たことがなかったので新鮮でした。

もっとも、口さがない人は「こんなことやったって視聴者は気づかないよ」というかもしれません。
しかし、こういう演出は視聴者の無意識に影響を与えます。
「理由はよくわかんないけど、なんかいいな」と視聴者が思うとき、そこには演出家の細かい工夫がなされていることが多い。
それがこのようにロジックで説明がつく場合もあれば、演出家の直感で映像を組み立てて成功することもあります。

僕も最初から気づくわけじゃなく、最初に見たときに「なんかいいな。どうしていいと感じるんだろ?」と疑問に思い、そこから何度もくり返し見て演出意図に気づくことが多いです。
石井さんの場合は、ロジックで組み立てながらもマニアックなところに演出が入りこんでいかず、ちゃんとメジャーな映像に仕上がっているところがすごいなと。
作家の一人として自分も見習いたいところです。

この4話、ほかにもおもしろい個所がいろいろありまして、たとえば冒頭でまっすぐ傘をついているカットと、「雪」の足もとがかたむいているカットとの対比とか、佐藤先生のおっぱいとか、いろいろ興味深いのですが、きりがないのでこれくらいで。

あぁ……去年やってた「オカルティック・ナイン」8話の石井演出もとりあげたい……けど……体力……が……。