共通列挙法

【 共通列挙法 】

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  七月の青影
 その季節は群青色のくじら。
 夏が、巨体をうねらせて真昼を游泳している。
 街のいたるところに夏の色が溶けこみ、影すらも青みがかって見える。
 ゆらゆらと歩道を進む、青い影法師。
 フェンスの網目から地上へ投げかけられた幾何学的な青影。
 落ちていた空き缶が拾われ、一瞬だけ地面に点として浮きでて消えた青影。
 描きかけのマンガ原稿を踏みつける、靴底の青影。
 信号機のひさしの下で、赤と競い合う青影。
 高々と舞いあがる白鳩の、羽ばたく翼のつけ根に波打つ青影。
 大空に浮かぶ飛行船――そこから電波塔に落ちる巨大な影は、青いくじらの形(なり)をしている。
「空飛ぶ魚。」
 少女の全身が、くじらの影で青く塗りつぶされていた。
「……みたいだけど、ちがうんだよね、あれ。」
 飛行船を見あげていたペンネはつぶやいた。
 電波塔の屋上――さらに上。
 二百メートルにもおよぶアンテナの一部に、ペンネは腰かけていた。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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レトリックにおける「列挙法」の一種で、なんらかの共通項でくくった上でさまざまなものを列挙していく方法。
上記引用文では、「青い影」という要素でくくっている。

物事を列挙していく方法は昔からあり、日本文学にも「物づくし」というものがあるが、うまくやらないとかえって印象が散漫になってしまうおそれがある。
とくに、街などの描写のさい、「~というクルマがあり、~という看板、~という店」というふうに、さまざまな要素を統一感なく列挙していくやりかたは、ときに読者を混乱させる。

たとえば、「赤い家、白い鳩、高い柿の木」と列挙したとする。
形容詞を抜きだすと「赤い・白い・高い」となり、名詞は「家・鳩・柿の木」となるが、この組み合わせに一貫性がなく、読者は一読ではなかなかイメージがまとまりづらい。

そういう表現は映像ではすぐに理解できても、文章ではイメージしづらい。
また、いくら文章で書いたところで、結局それは一種の「記号」に還元されてしまいがちだ。

そこで、上記引用文でおこなったように、描写する対称を「青い影」に限定し、その枠内でさまざまなバリエーションをつけていくという書き方をすれば、統一感ができて理解しやすくなる。
また、「青い影」のさまざまなバリエーションを具体的に書いているわけなので、一種の異化作用が生じ、記号に還元されづらくなる。

このような共通項での列挙法は、細田守監督の「時をかける少女」で印象的にでてくる。

時かけ列挙①
時かけ列挙②
時かけ列挙③
時かけ列挙④
時かけ列挙⑤
時かけ列挙⑥
時かけ列挙⑦
時かけ列挙⑧
時かけ列挙⑨
時かけ列挙⑩
時かけ列挙⑪
時かけ列挙⑫
時かけ列挙⑬
時かけ列挙⑭
時かけ列挙⑮
時かけ列挙⑯


上記画像はすべて、「時間の止まった世界」を描いているが、何枚かごとに共通項での列挙法がおこなわれている。

最初の6枚(踏み切りの信号~赤い風船)までは、すべて「丸いもの」で統一されている。
つぎの7枚~9枚(ぶらんこ~時計の振り子)は、「揺れるもの」で統一されている。
つぎの10枚&11枚(コップの水・ボウルの水をまく)では、「動く水」の要素で統一されている。
つぎの12枚&13枚(鯉・鳥の足)では、「波紋」の要素で統一されている。
最後の14枚~16枚では、「飛んでいる鳥」の要素で統一されている。

このように要素ごとに列挙することによって、視聴者にわかりやすく「時間の止まった世界」を見せることに成功している。

共通項での列挙法は、情報をわかりやすく束ねて視聴者(読者)に伝えることができるというメリットがあるが、ほかのメリットとして、「共通要素の意味を強調できる」というのもある。

以下の引用画像は、高雄統子氏が監督をつとめた「アイドルマスター シンデレラガールズ」の8話から。(絵コンテ&演出=岡本学)

デレマス8話列挙①
デレマス8話列挙②
デレマス8話列挙③
デレマス8話列挙④
デレマス8話列挙⑤
デレマス8話列挙⑥


一見してわかるとおり、「赤」という共通要素でくくられている。
上記のカット群は「事務所からの帰り道」のシーンで、自分の気持ちをうまくプロデューサーに伝えることができなかった「神崎蘭子」が、落ちこんだ気分で仲間の「アナスタシア」とともに寮に帰ろうとしているところ。

アイドルへの道に危機がおとずれていることを示すために、「赤」という色をおしだしたものと思われる。
このように、特定の意味を視聴者(読者)に強く印象づけられるというメリットが共通列挙法にはある。

「アキハバラ∧デンパトウ」にでてくる青影の場合は、「自己存在の不安」や「現実のゆらぎ」といった印象を読者に伝える狙いがあった。