音声前後法(ステープリング・テクニクス)

【 音声前後法 】

ステープリング・テクニクスの「音響関連法」の一種。
映像の「スプリット編集」を小説に応用したもの。

スプリット編集とは、「映像」と「音」を意図的にずらす編集法のこと。
たとえば、カットを切り替える前に、さきにつぎの音声を流しはじめ、それからカットを切り替えるといった手法である。

以下の引用画像は、錦織敦史監督の「THE iDOLM@STER」17話より。(絵コンテ・演出=柴田由香)

アイマス17話①「毎度のことながらたいへんだね」
アイマス17話②「毎度のことながらたいへんだね」


一枚目は、作中のアイドル「菊地真」が、ファンたちに追われて事務所のあるビルへ逃げこんだところ。
このカットがまだ残っている状態で、急に「毎度のことながらたいへんだね」というべつの女性の台詞が流れる。
その台詞が終わるのと同時に二枚目のカットに切り替わり、事務所で真に飲み物をだす「天海春香」の姿が映される。
これにより、さきに流れた台詞は、つぎのカットで春香が真にいったものであることがわかる。

このように、さきにつぎのカットの台詞を流すことで、場面転換をスムーズにおこない、その台詞を印象深いものにすることができる。

これを小説に応用すると、以下のようになる。


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「なっ、なんつうものをのませるんですか!」
「カカカーッ! 死ねい! ウチに恥をかかせた罰や!」
 ぐるぐると追いかけ合う二人を、残りの面々が呆れ顔で見つめている。
 ――そんな、いつもの平和な電波塔の一ページ。

「おゥ、こんなくだらん話はどうだって――」

  叔父の事務所で
「――いいんだよ。おい、高橋。」
 書き継がれているチロの日記と話をきいて、ヤクザの叔父がいった。
 この事務所を訪れるのは、これで何度目だったろう。チロは思いだせない。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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電波塔の場面から、ヤクザの叔父の事務所へと場面転換するところ。
まだ電波塔のなかにいる状態から、さきに「おゥ、こんなくだらん話はどうだって――」と叔父の台詞を流し、そのあと場面転換し、叔父の事務所に移ってから、「――いいんだよ。なぁ、高橋。」と台詞のつづきを書いている。

ここでは、コメディからシリアスな雰囲気に移り変わるところなため、場面転換を印象的におこなう必要があった。
コメディ場面の最後に、叔父の台詞を先行して流すことにより、「コメディのなかに割りこんでくる、つぎのシリアスな展開」という印象を読者にあたえる狙いがある。

上記の例では声をさきに流したが、逆に声をあとに残すやりかたもある。
つまり、場面転換をしても、前のシーンの声を引きつづき流しつづけるという方法である。
声優の世界などでは、これを「台詞をこぼす」という。

また、人の声だけでなく、擬音などを用いてこのテクニックを使うことも可能である。