藍上 陸
れい亜 (イラスト)
SBクリエイティブ
第7回の解説はこちら。――――――――――――――――――――――――――――――
銀行にて 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!デカイ!ナイスバルク!!
「ハッハッハッハ!」
二メートルの筋肉が豪快に笑いながら走ってくる。
その肩には、太いロープがかつがれている。
ロープのさきにはつぎの場面(シーン)がつながれており、番人の走る動きに合わせてずずずっとその場面(シーン)がやってくる。
そうして、古い場面(シーン)から新しい場面(シーン)へとワイプして切り替わり、番人は笑い声だけを残してどこかへと走り去っていった。
「……あれ?」
その新しい場面(シーン)のなかで、チロはふと顔をあげて辺りを見まわした。
「いま、番人さんが走っていったような……っていうか、ここどこ?」
「どしたの?」
となりにすわったペンネが、上体を曲げて顔をのぞきこんできた。
「ペンネちゃん……ここってどこだっけ?」
「うりゅ? ぎんこーだよ?」
「銀行? ああ、そうだ、銀行にきたんだった。」
電波塔のなかには、複数の銀行の支店が入っている。
きょうはペンネが生活費をおろすというので、いっしょにやってきたのだった。
どこか厳粛な雰囲気のただようロビーには、ほかの客たちが静かに順番まちしている。
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前回は番人とペンネが駈け去っていくシーンで終わりましたが、今回もいきなり番人が登場します。
肩にロープをかついで、つぎのシーンを引っぱってくるという、トンデモナイことをしています。
映像における
ワイプのようなことを、文章でおこなっているわけです。
「
ワイプ法」とぃう項目を作ったので、そちらをご覧ください。
このシーンでは銀行が舞台ですが、これも電波塔のなかに入っているという設定です。
「アキハバラ∧デンパトウ」のタイトルの通り、なるべく電波塔のなかで物語を進めるのがコンセプトですので。
また、マンガ家であるペンネの経済事情や金銭感覚にもちょっとふれておきたいという意図もありました。
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女子力を高める「イッちゃうっ! ああん、イッちゃうよ~~~~っ! って叫びよってんで? 銀行で! なにごとやと思ったわマジで。」
夜、一〇一号室、ペンネの部屋。
ソファで缶チューハイをのみながら、せやねんが昼間起きたことを笑い話にしていた。
リビングにはほかに、ペンネとチロ、そして渋面のヌグがいる。
「いやぁ、まさか二人がいきなりおっぱじめるとはなぁ。お姉さんびっくりや! AVの企画として通りそうやん! タイトルは『真昼の銀行強○(ピー)』や!」
「おっぱじめてませんから! いったでしょ、おばあさんに席を譲ろうとしただけって!」
「おばあさんまで相乗りか! ストライクゾーン広い男優やで!」
「あんた最低だな!」
「○(ピー)のなかは『とう』じゃなくて『かん』のほうやから、よろしく!」
「伏せ字の意味ないだろ!」
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ペンネの部屋に移動して、さっそく下ネタ。この前の銀行のシーンのラストも下ネタでした。
いやぁ、下品ですね(^^)
この藍上陸という作家は、ギャグといったら下ネタしか浮かばないのでしょうか。(他人事)
これでもいちおう、この作品では下ネタがあまりきつくならないように注意しているつもりなんですが。
下ネタをいわせるキャラを限定して、女性のせやねんだけにするようにしています。男がいうと引くので。
ただ企業戦士だけは、このあとのシーンにあるように変態的なことをたまにしたりしますが。
下ネタが生々しくなると読者が引いてしまうのでは――という危惧から、いっそつきぬけたほうがギャグとして笑ってもらえるだろうと思って、いつも激しくなってしまいます……。
せやねんが割りを食ってしまうので、どこかでかわいいシーンを入れて救済しないといけません。
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ヌグが顔をあげ、カッと目を見ひらいた。
マンガのような集中線が彼女の碧眼に集まる。
「女子力が足りません!」
叫びながら、雑誌をペンネの膝元に投げつけた。
女性ファッション誌である。
表紙には飴細工のようなフォントで「ゆるふわ女子力コーデ」と書かれてあり、いかにも女子力の高そうなモデルが立っていた。
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第3回で、「ヌグが、リミテッドアニメのようなパカパカした身ぶりで否定した。」という表現がでてきましたが、今回も「マンガのような集中線が彼女の碧眼に集まる。」という、マンガ的な表現がでてきます。
ヌグのオタクっぽさをあらわしています。マンガというより、70年代から80年代によく作られた、劇画調のアニメの表現という感じでしょうか。
引用文最後の、「飴細工のようなフォント」というのは、以前に開高健全集のなかのエッセイを読んでいるとき、「拳骨のような活字」という表現を見つけ、それに触発されたものです。
開高健は大岡昇平や三島由紀夫、そして村上春樹氏などとともに、戦後文学のなかでもっとも比喩(をはじめとするレトリック)に意欲的な作家の一人だと思います。
うまい比喩というものは、使いどころがよく、言葉が意外なほうへ飛躍しながらも、急所に手が届くような的確さがあります。
自分ももっとうまくなりたいものです。
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そのときふいに、リビングを震わせるほどの大音声が轟いた。
「つまり、女子力を高めるしかないのであーる!」
渋い男の声だ。
「この声は、企業戦士さん……!?」
声のするほうへふり返る。
そこにはたしかに企業戦士がいた。
ピンクのセーラー服をまとい、すね毛もろだしの五十代ニートの姿があった。
「私が女子力の高めかたを教えてあげるのであーる!」
腕を組み、威風堂々と仁王立ちしている。
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ここからが企業戦士の変態的なシーン。
企業戦士が唐突にあらわれますが、テンポを崩さずに登場のインパクトを強める方法として、「そこにはたしかに企業戦士がいた。/ピンクのセーラー服をまとい、すね毛もろだしの五十代ニートの姿があった。」というふうに、情報を付加しながらくり返すように書いています。
こういう場合の注意点として、どうしても変態的な服装を細かく描写したくなるのですが、それではテンポが落ちるおそれがあります。
あくまでもギャグとして笑わせるのが目的であれば、思いきって「ピンクのセーラー服」というインパクトに頼り、ほかの描写は最小限にして進めたほうが、おもしろくなりやすいと思います。
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せやねんも真顔で、
「お前、もうニートとかいうレベルちゃうで? 犯罪やで? 事件は会議室で起きてるんやなくて、まさにいまここで起きてるんやで?」
しかし仁王立ちのセーラー服はいっさい動じない。お仕置きされるのは自分ではなく他人、それも月に代わってお仕置きするものだといわんばかりの正義顔である。
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本作ではあまりパロディをやりすぎないようにしているのですが、ここでは思いっきりやってしまっています。
ヌグやせやねんなどはオタクなので、台詞のなかでついついパロディ的な台詞がでてしまうのは自然だと思うのですが、地の文でパロディをやりすぎるとうざったくなるので、自身への戒めとしてとりあげておきます。
せやねんの「事件は会議室で~」というのは、「踊る大捜査線」より。
地の文の、「月に代わってお仕置き」というのは、「セーラームーン」です。
どちらも私の子供のころの作品なんで、最近の若い人たちに通じるのか不安ですが……。
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「きぎょーさんって女の子だったの?」
無垢な瞳でペンネがきいた。
「女の子とは肉体ではなく精神の問題なのだよ。ところでペンネ君、前から気になっていたのだが私のことを『きぎょーさん』と呼ぶね?」
「うん、だって戦士じゃないもの。」
「ぐふっ!?」
企業戦士の肩が、がくりと落ちた。
「戦ってない人は戦士じゃないもんね?」
無垢な瞳でペンネがだめをおす。
「おぐっ!?」
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ペンネの天然サドなところが発揮されるところ。
基本的にペンネはいい子なのですが、毒気がなさすぎるとキャラが平板になってしまいます。
そこでこういう感じに反対の要素もときおり加えるわけです。
前回にあった、「アメリカを倒す!」とかいう剣呑なやりとりもその一つです。
「ミスター味っ子」の料理描写でくり返し使われた、「スイカに塩」理論というやつです。
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「い、いいだろう、見ていたまえ。これが女子力であーるッ!」
ふり返った。
セーラー服の五十代ニートがふり返った。
そして、跳ねた。
海面をはねるボラのように、白目になって斜めに跳ねた。
「私、ゆるふわ系女子なのおぅ!」
裏声で叫びながら、胴体からカーペットに落下。
すぐに立ちあがり、またボラのように跳ねる。
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担当氏にウケた、ボラ跳びのシーン。
「ふり返った。/セーラー服の五十代ニートがふり返った。」というくり返す書き方は、
ダブルアクションっぽく書いています。
ただ、軽く書いているので、レトリックの反復法の範疇かもしれません。
ここはテンポよく進めなければならないので、あまりくどく書くと逆効果になります。
このあと、ボラ跳びした企業戦士によるひどい台詞がどんどんでてきますが、それはぜひ本篇でご確認ください。(^^)
第8回の解説は以上です。
第9回の解説はこちら。