ワイプ法(小説技法)

【 ワイプ法 】

映像における「ワイプ」の切り替えを、小説に応用したもの。

ワイプと呼ばれるものには二種類あり、バラエティ番組でよく使われる画面端の小窓のことをさす場合もあるが、ここでいうワイプとは、画面を切り替えるトランジションのこと。

以下の引用画像は、「中二病でも恋がしたい!戀」の3話より。(監督=石原立也/絵コンテ・演出=河浪栄作)

中二病でも恋がしたい!戀 3話のワイプ①
中二病でも恋がしたい!戀 3話のワイプ②
中二病でも恋がしたい!戀 3話のワイプ③
中二病でも恋がしたい!戀 3話のワイプ④
中二病でも恋がしたい!戀 3話のワイプ⑤


このように、新しいカットがやってきて、前のカットを拭きとるように切り替える手法をワイプという。
ワイプの方向に制限はなく、左右上下どちらに動いてもいいし、斜めに移動してもよい。
通常のカット割りよりも印象に残りやすいため、おもにシーンやシークエンスが切り替わるときに使われる。

もともとは実写映画で古くから使われていた手法だが、近年の実写ではほとんど使われなくなっている。
おそらく、ワイプの画面移動が「作り物くさく」感じられてしまうからと思われる。
昔の監督でも、小津安二郎などはワイプの使用に否定的であった。

しかしアニメではいまだにワイプはよく使われる。
装飾的なワイプの効果が、アニメという媒体によく合っているためと思われる。
実写では嫌われがちな「作り物くささ」は、アニメではかならずしもデメリットにならない。
アニメという媒体は、素材の段階から徹底的に作り物であるためだ。

また、ワイプをおこなうとき、境界線にキャラクターなどを使うこともできる。
以下の引用画像は、「だがしかし」の6話より。(監督=高柳滋仁/絵コンテ=重本和佳子/演出=岩井明香)

だがしかし6話ワイプ①
だがしかし6話ワイプ②
だがしかし6話ワイプ③
だがしかし6話ワイプ④
だがしかし6話ワイプ⑤
だがしかし6話ワイプ⑥


このように、キャラクターを利用したワイプ法というものはアニメ作品ではときおり見られる。
こういうものを小説に応用したのが、以下の引用文。


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「さぁ走るのサ!」
「うん、ボク走る!」
 きらきらした笑顔で、そろって走りだす。
 軍隊のランニングのように、番人の名前を連呼しながら。
 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!!
 
  ワイプ
 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!! 番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!!
「ハッハッハッハ!」
 二メートルの筋肉が豪快に笑いながら走ってくる。
 その肩には、太いロープがかつがれている。
 ロープのさきにはつぎの場面(シーン)がつながれており、番人の走る動きに合わせてずずずっとその場面(シーン)がやってくる。
 そうして、古い場面(シーン)から新しい場面(シーン)へとワイプして切り替わり、番人は笑い声とともにどこかへと走り去っていった。
「……あれ?」
 その新しい場面(シーン)のなかで、チロはふと顔をあげて辺りを見まわした。
「いま、番人さんが走っていったような……っていうか、ここどこ?」 
「どしたの?」
 となりにすわったペンネが、上体を曲げて顔を覗きこんできた。
「ペンネちゃん……ここってどこだっけ?」
「ぎんこーだよ?」
「銀行? ああ、そっか、銀行にきたんだった。」
 電波塔のなかには、複数の銀行の支店が入っている。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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引用文にある「番人」というのは、正式名称を「番人ダブル・バイセップス!バリバリキレテル!Oh!デカイ!ナイスバルク!!」という。
最初のシーンで、地の文においてその名前を連呼しながらキャラクターが走り去っていく。
そのあと、空白行を置いて「銀行にて」のシーンに切り替わるが、そこでも引きつづき番人の名前が連呼され、前のシーンからの連続性が保たれている。

こうした表現をおこなうことで、インパクトのあるシーンの切り替えが可能になる。
ただし、メタ的な要素が強くなるので、シリアスな物語でおこなうのは難しい。

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