七月から、アニメ「
アイドルマスター シンデレラガールズ(デレマス)」の二期が始まります。
それに備えて、監督の高雄統子さんの演出について少し考えてみました。
高雄さんといえば、表情芝居が細かいことと、レイアウトにこだわる方、という印象が自分にはあります。
もちろん演出家であればだれしもがレイアウトにはこだわるものですが、高雄さんの場合、単に画面の見栄えをよくするのではなく、それによってキャラの心情を画面にはっきりあらわそうという意図が強く感じられます。
それは色調にもあらわれており、高雄演出回では、シリアスなシーンのとき、やや暗い・冷たい色調の映像になることがあります。
たとえば、京アニ時代に絵コンテ・演出を担当した「けいおん!」11話がそうですね。
「けいおん!」では異色のシリアスな回ですが、ほかの回とちがって画面の色調が暗くなっております。
また、デレマスの一期では、ライトモチーフのようにくり返される時計のカット、花言葉にかけた各種の花のカット、人間関係のぎこちなさをあらわす独特の間のとりかたなど、細かい演出が多くおこなわれております。
象徴的なカットにあふれ、まるで判じ物のように、一つ一つのカットを読み解いていく楽しさがあります。
前置きが長くなりましたが、今回とりあげるのは「カットのつなぎ方」です。
レイアウトに凝る方は、カットのつなぎ方にもこだわりがあるものです。
高雄さんの場合、「クルマ」を使ってカットをつなぐことがたまに見られます。
たとえば、「
THE IDOLM@STER」(2011年・錦織敦史監督)。
高雄さんはシリーズ演出をつとめておられますが、24話では絵コンテ・演出もされております。
その24話はシリアスな回で、ヒロインの天海春香が精神的に大きく揺さぶられる展開になっております。
そこで、おもしろいカットのつなぎ方が見られました。
立ちつくす春香の後ろから、音を立ててクルマがやってきて、それがワイプに似た役目を果たしてつぎのシーンにつながる、というものです。




このクルマの登場はかなり唐突で、一瞬、春香が轢かれたんじゃないかと思ってしまうほどです。
このアニメではカットの切り替えに
ワイプを使っておりませんが、このクルマによって、擬似的にワイプのような効果がでております。
静止画だとわかりませんが、クルマのエンジン音もかなり騒々しいです。
そして急に音が消え、上記引用画像の最後の水差しの絵があらわれます。
この水差し、クルマとは反対のほうへ向いている点に注目してください。
これによって、はっきりとシーンが切り替わったことが伝わってきます。
また、この水差しは、
春香が舞台から突き落としたプロデューサー……事故で舞台から転落して大けがを負ってしまった、プロデューサーを示しております。(この水差しがあるのは病室です)
その水差しが、前のシーンの春香と向き合うように置かれているわけです。
やかましいクルマのエンジン音を背負った春香と、静かで透明な水差しで暗示されるプロデューサーが、向き合う形で見事に対比されています。
水差しの形も丸っこくっていいですね。水が七分目あたりまで入っている点も、入院しているプロデューサーがまだ本調子でないながらも、危険な状態を脱したことを暗示していると思います。
このクルマの演出は、同じ回の後半でもちょっと使われております。



走る春香の脚のカットから、クルマのエンジン音が轟いてカットが切り替わり、左から右へクルマが移動し、そのあとに春香の全身が映ります。
ここは本当に短いカットなので、クルマは一瞬しか映らず、ワイプ的な切り替えとは少しちがうかもしれません。
クルマが映る直前に、エンジン音がさきに響いてくるので、「あっ、くるな」というのがわかります。
視覚的なワイプだけでなく、「音」によるワイプ効果という面もあるかもしれません。
こういう工夫によって、カットのつながりをスムースに、かつ劇的にしているわけです。
高雄さんが京アニに在籍していたときに作られた、「
CLANNAD」(2007年・石原立也監督)でも、同じようにクルマを使った演出がありました。
高雄さんは6話の絵コンテ・演出を担当されています。
演出家としては初期のころなのですが、すでに後につながる演出をしていることがわかります。





ちなみに、クルマを使ったワイプという手法は、黒澤明監督の「
生きる」(1952年)で使われております。




上記引用画像は、クルマの後ろで実際にワイプをおこなっております。
こういう手法は黒澤監督が最初というわけではないと思いますが、海外の映画にも影響を与えたらしく、この「生きる」が海外で知られてからは、似たような画面の切り替えをおこなう作品が作られたそうです。
作品名はわすれましたが、画面の手前を人間が移動して、その動きに合わせてワイプする、という作品があったと思います。
現在、実写映画ではほとんどワイプが使われなくなりましたが、アニメではまだワイプが使われることがあります。
装飾的なワイプの効果が、アニメという媒体に違和感なくはまるからだと思いますが、こういったワイプ芸をもっと見てみたいものです。
さて、高雄さんは、監督作品であるデレマスの1話(絵コンテ・高雄統子/演出・原田孝宏&矢嶋武)で、またクルマを使った画面の切り替えをおこなっております。



渋谷凛というキャラクターが、はじめて顔をあらわすシーンです。
今回のクルマは、擬似的なワイプとして使われているわけではありません。
ロングショットから、同じ画角のままバストショットへと切り替わる、いわゆる「ポン寄り」の映像ですが、それをスムースにおこなうために、クルマの移動を使った「アクションつなぎ」がおこなわれております。
ロングショットのときに、左から右へクルマがやってきて、凛へと迫ります。(一枚目)
そして凛にクルマが重なる瞬間、カットが切り替わって凛のバストショットになりますが、まだクルマは完全に過ぎ去っておりません。(二枚目)
そのクルマが完全に過ぎ去った瞬間に、凛の顔が堂々と映されます。(三枚目)
じつは、この前のシーンからずっと凛は花屋の店員として登場しているのですが、顔は映されておりませんでした。
このクルマを使った演出によって、印象的に凛の顔が登場するというしかけです。
実際に映像を見てみると、かなり気持ちのよい流れとなっております。
こういう細かい演出の積み重ねが、キャラクターへの愛着を高め、ドラマを盛りあげていくのだと思います。
デレマスの二期でも、きっとすばらしい演出が見られることでしょう。楽しみです。