父が他界しました。肝臓癌でした。前々から具合が悪かったのでおどろきもなかったですが、実感がわきません。
哀しいとも思いません。故人の希望で僧侶も呼ばないですぐに荼毘に付したから、あっという間に骨になりました。墓にも入れずに散骨する予定です。
祖母が「骨になったのを見ると諦めがつくもんだね」といったのが印象的でした。
自分も死ぬときはこんな風にあっさりと死んで、すぐに存在が消えうせればいいなと思います。仕事柄、小説っちゅーものが残っちゃうけれど。
なんとなく自分の部屋の片づけをしていたら、昔読んだ本とか積ん読状態のがいっぱい発掘されました。「おー、こんなのがあったっけなぁ」とか「……なぜ同じのが二冊あるんだ」みたいなことがあって楽しいです。
図書館に行くよりも、自分の家の本棚や本の詰まったダンボールを漁ってたほうが楽しい。小説は時間をおいてくり返し読んだ方が楽しいですね。
そのなかでも、しなな泰之さんの「
スイーツ!」がありました。やっぱり文章がすごいですね。発売日に読んで衝撃を受けて、知り合いの作家たちに「すごい新人がでてきたから読んだほうがいい!」と奨めまくったのを思いだします。
読んだ作家たちも、「たしかにすごいねあれ。ああいう風には書けない」といっていました。
冒頭の文章を読むだけで非凡さがわかりますね。饒舌なようでいてきっちりと締まっていて、心地よいリズムがあります。
一人称で饒舌そうに語るから、いかにもラノベみたいな文章だと思う人がいるかもしれないけれど、ぜんぜんちがうんだよなぁ。どういう影響を受けてでてきた文章なのかわからない。本人に会ったときにもっと聞いておけばよかったんですが、きっと本人の気質によるものだと思います。本人の人間性(自然な姿というよりも「こうありたい」という理想)が文体に現れるというのは、稀有なことだと思います。
二作目の「
魔法少女を忘れない」もまたよかったです。
この作品が
映画化されて各地で上映されているときに2011年の3.11が起きて、しななさんも被災されてしまいました。震災後に電話をしてみたら、無事とのことでひとまず安心しましたが。
それと、ろくごまるにさんの「
食前絶後‼」が再発掘されました。
この本、二度買ってるんです。二十代前半のときに一度読んで、すごく衝撃を受けたので、打ち合わせした編集者に「すごいから読んでみてください」とあげてしまったんです。
そのあと、また読みたくなったんで買いました。
すごいなぁこの本、ラノベ界のオーパーツですよ。あきらかに十年は早い。当時どうしてこういう風に書けたのかが本気でわからない。
本は94年に発売されたんですが、投稿作は92年らしく、そのあと93年に一度短篇にした上で長篇化したらしいです。いまから二十年以上も前ですね。
僕は当時まだ小学生ですから状況に詳しくないのですが、スレイヤーズとかオーフェンなどに代表されるファンタジー全盛時代だったはずです。そんななかで、学園を舞台にした異色バトル物が出版されたのはすごいですね。当時の読者はどんな風に読んだのだろうか。たぶん昔よりもいまの読者のほうが、もっと素直に受けいれられるんじゃないだろうか。
内容もそうですが、文体がすごい。当時こんな風に書いてた作家なんていなかったんじゃないでしょうか。
秋山瑞人さん以降にこれに似た書き方が流行ったので、いまではむしろ自然に読めてしまうという……まさにオーパーツというか、デビュー作でこういうのを作れてしまうのは、天才的ですね。
このあとの「
封仙娘娘追宝録」になると文体が変わって、改行の多いものに変わるんですが、やはりよくあるラノベの文体とはまったくちがう独自のものでした。
しななさんの文章と合わせて、もっと文体論的に語りたいのですが、長くなるので割愛。いずれラノベの文体論を書きたいのですが。(泉子・K. メイナードさんの
ライトノベル表現論は、数少ないラノベの文体論研究で、労作だと思うのですが、実作者側として見るとやはりちょっと物足りなさがあるというか、「会話の砕けた感じ」とか「オノマトペ」とかそういうところにフォーカスが当たっていて、具体的なテクニックにとぼしいので)
今回の発掘品ではないですが、最近読んだ本だと真坂マサルさんの「
水木しげ子さんと結ばれました」が面白かったです。
基本的に僕はシリーズものの小説でも最初の一巻しか読まないのですが、これは発売日に三巻とも買ってすぐに読みました。
キャラクターを立たせる譬喩などの表現がすごくうまいと思いました。余分なものをそぎ落として、一番美味しいところだけを残しているので、読んでいて快感があります。
わりと残酷な要素もあるのですが、ホラーやグロとして読むのではなく、「暗色の濃淡がマーブル模様になった、いわくいいがたい雰囲気のなかで、ときおり白色浮出のように魅力を覗かせるキャラの姿を楽しむ」という読み方のほうが、作者の意図に合っているのではないでしょうか。文体を見るとそんな気がします。グロく書こうと思えばいくらでもグロく書けたろうし、もっと異常に書こうと思えばいくらでも異常に書けたなかで、あえて省略を効かせた文章でこういう表現の仕方をするのは、明確な演出意図がないとできないでしょうから。
ほかにも、谷山由紀さんの「
天夢航海」や「
こんなに緑の森の中」、桑島由一さんの「
ポイポイポイ」など、すばらしい本が数年ぶりにでてきたのですが、紹介しだすとキリがないのでひとまずこれで。
どれも小説の面白さを思いださせてくれる作品ばかりです。
父も遠行したことだし、僕も仕事します。